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           メール・マガジン

      「FNサービス 問題解決おたすけマン」

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    ★第100号       ’01−07−20★

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     覇者は学ばず?

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●デイヴィッド・ハルバースタムの

 

大著『覇者の奢り』(原題:The Reckoning、日本語版1987年 日本放送

出版協会)を思い起こさせるTVルポがありました、、 と言っても急に

は<大著>自体が思い起こされにくいかも知れません。 読まれた方には

お許し頂いて概略を申し上げると、それは

 

日産自動車とフォード、日米の2大自動車メーカーを絡ませて歴史を語り、

それによって平家物語冒頭の一句、「おごれる者は久しからず」にも似た

教訓を提供した英文原著約40万語、日本語版上下約1050頁の本です。

 

その序文で著者は告白しております。 それまでの人生、アメリカが世界

最高の製品を大量生産している、自動車の大量生産が出来る国などほかに

あるわけ無い、と思い込んでいた。  ところが突然、

 

資源乏しく、戦争で破壊し尽くされた日本が、アメリカ車に無い品質的な

特徴を具えた車をアメリカ産業以上の効率で作り、アメリカ市場で評判を

取っていることに気付く。  そこで調査し始め、5年以上もかけ、

 

かつてアメリカ産業の優秀性と支配力の象徴だった自動車産業が、知らぬ

間に<モノの生産>から<利益の追求>に目的を変えてしまい、真の顧客

を見失っていたことを知る。 道を踏み外して転落、アメリカ自動車産業

は、かつての栄光を失っていた。  そのもとになった目的意識の変化は

 

自動車産業にだけ生じたものではなく、また地域や人種をも問わないはず。

従って日本も成功するにつれ、そのもとになっていた流儀が通じなくなる

のではないだろうか、という大河ドキュメント、かつ問題提起の書。

 

日産自動車のトップはこの本を読まなかったようで、著者の期待通り?を

演じてしまいました。  だから言わないこっちゃない、、 予言の書。

 

 

口惜しいことに、日本的<流儀>が、日産だけでなくそこら中でメタメタ

ボロボロになっていることはご存じの通り。  序文の結びでさらに言う。

 「そしてこれは、、現在、我々が全てその一部分となっている新しい、

  そして厳しい国際経済秩序の始まりについての本でもあるのだ。」

 

超能力的予言はたいてい抽象的で、滅多に当たらない。 が、人間のした

ことから法則性を見出し、それに基づいて歴史家が提示した展望は滅多に

外れない。 <歴史は繰り返す>と言う通り。

 

その意図で、かどうか、原著に無い副題が日本版には付いており、いわく

「自動車・男たちの産業史」。 そう言えば、「ベスト&ブライテスト」

の表紙にも「ベトナム戦争をめぐって、、苦悩と挫折のアメリカ現代史!」

とある。 分類上<ジャーナリスト>でも、ハルバースタムの姿勢は常に

<歴史家>でした。 予言のつもりではなくとも、的中率は高い。 

 

最終(54)章はタイトルからして「歴史の教訓」。 その中にこうあります。

 「大がかりな財政改革を公約した保守的政権の下でも、国の負債はどん

  どん積もっていった。」  そして、デューク大学卒業式で演説した

  アイアコッカを引用して、

 「諸君の世代は、、うまく会計簿をつけなければならない、なぜなら

  諸君は二兆ドルの負債を受け継ぐからだ、、 と語った。」 

 

この本発行の1987年当時は第二次中曽根内閣、大蔵大臣は竹下登。 政界

の覇者も学ばなかったが、同様歴代<先送り>、無為無策に過ごして今や

日本は沈没寸前。 <人の振り見て我が振り直>してさえいたら、、 

 

とにかくアメリカに転換期が訪れたわけですが、暗くはなかった。

 「新しい分野への投資システムは、恐らく世界で最も活発である、、

  続々と生まれる新会社、大企業の安全な職場を投げ捨てても自らに

  賭ける有能な男女、というアメリカ社会の一面は極めて活気に満ち、

  極めて将来性に富んだものと言えよう。」

 

その後の訪れたネット・ビジネス隆盛を予告するかのよう。 しかし、

 「重大な弱点もある。 一つは義務教育制度の欠陥とアメリカの生徒の

  読み書き能力の低さだ。、、、子供たちが、高い生活水準を当たり前

  と考えるようになってしまっていることだ。」

 

今の我が国教育事情や子供たちの傾向そのもの、の記述ですな。 当時は

未だ、日本劣化以前に人格形成を終えた人々が活躍しており、長年のQC

学習が実を結び、リーン・プロダクションやジャスト・イン・タイム方式、

色々な工夫がなされ、世界中が目を見張るような成果を挙げていました。

 

しかしマジックではないし、<日本式>と言っても特許ではない。 その

気になれば、彼らも似たことは出来る。 いや、彼ら風のものに作り上げ、

逆輸出して来る。 ベンチマーキング、リエンジニアリング、みんなそれ。

 

流通がグローバルになれば、お互いの安心と便利のため<国際標準規格>

化は必至です。 しかし、根がローカルな日本人、それがイジメに思える

せいか、制定の段階から参画しようとはしない、、

 

そしてある日、ツケ(「覇者の奢り」の原題、The Reckoning の語義でも

ある)が回ってきて泡食うことになる、、、  それが、頭書の<ルポ>、

NHKTV1、6月某日の「クローズアップ現代」、タイトルは

 

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●「立ちはだかる国際標準規格」。

 

我が国がアジア圏に年間1800万台も輸出している<2槽式>洗濯機が、

シンガポールには売れないことになった、さあ大変、というお話です。

 

  洗濯と脱水、2槽なら片側使用も同時併用も可能。 節水機能も優れ

  ているので、(買えなくなったら)「さあ大変」は市場の声でもある。

 

販売禁止の理由は簡単、「IEC規格に準拠していない」から。 しかし

規格書にも、少々難あり。 主導したヨーロッパ諸国における洗濯機とは

<ドラム式>だけ。 だから、

 

「洗濯槽が完全に停まるまでは開いてはならない」という「前面の窓蓋」

が<2槽式>にはもともと無い。 で、規定されていないのだから問題に

する必要も無い、と日本メーカーが高をくくったのかも知れない。 が、

規定されていない商品は買わない、というリクツもあった。

 

シンガポール生産標準局は「国際標準規格としてのIEC規格で検査して

いる。 売りたければそれに合わせるべき」、の見解。 ところ変われど

役所は変わらず、タテマエ優先です。

 

台湾でも同様のことが。  <電気ポット>が輸出できなくなったという。

マグネット式<差込口>がIEC規格で定義されていないから、、、 

 

当今、どうしても日本製でなくちゃ、とは(当の日本人ですら)言わなく

なっている。 規格で保証されているわけでもない、それなら閉め出して

しまえ、、 も不思議ではない。 あいにく、メーカー側の認識は、未だ

改まっていなかったようでしたが、、

 

どう見ても<現実>の把握が不十分、現実検討能力が不足。 おや、また

和田先生の説、<奢りの万能感>?  それがハルバースタム言う「成功

を支えて来た流儀が通じなくなる」段階の認識を妨げた、としか、、、 

 

 

ところで、IECって何だっけ? で、サーチはいっときの恥、遅ればせ

ながらのインタネット。 すぐ日本工業標準調査会<JISC>のサイト

が見付かりました。 そこの記述では、

 

JIS規格は昭和24年制定の工業標準化法に基づくもの。 一方IEC

(International Electrotechnical Commission)は遙か昔、1908年の

設立だという。  そしてJISCは、

 

「ISOやIECの審議メンバーとして、閣議了解に基づき日本の代表と

して参加しています」。 なら、何でも<輸入>で始まる我が国、JIS

の当初からIEC準拠で進めていそうなもの。 なのに何故か遅く、19

53年加盟、とある。  が、国谷キャスターの解説では、

 

「IEC規格の制定は1995年設立のWTOでの合意によるもの、だが

日本は消極的で、制定までの会合に人を出さなかった」。  どうして?

 

「JISがアジアのデファクト・スタンダードだから」必要無いと考えた

のだそうです。  何とローカル、何たる奢り。 家電の覇者は学ばず?

 

国際規格は誰の必要か、への配慮無き Self-centered な生産者原理のみ。

輸出できない!となって初めてショックを受けたという想像力貧困、近視

眼的発想。 「メーカーはお上の規格を頂くセンスでいた」とキャスター。

 

支配者に従ってさえいれば間違いないという万能感、即ち被支配者の人生

脚本。 強きになびき、弱きをくじく、、 は現実検討能力欠如の証明。

 

貿易立国が看板の担当省庁も、<製品輸出が命>のメーカーも共に、国際

競争のルールである国際規格には、常に注目していてアタリマエ。 それ

を無視するなんてトンデモナイ! が常識でしょうに。

 

ところが敢えて無視したのだから、やはり「日本の常識は世界の非常識」。

じゃ、世界の常識とは? 

 

(JISのような)ローカル規格は<貿易障壁>あるいは<WTO違反>。

公正な競争を妨げる身勝手な取り決め、という見方です。 即ちJISは

<葵のご紋>、見て何とも思わない人々が海外にはいて当然です。

 

ことさら<村八分>を恐れる我が民族性にして何故IEC規格制定準備の

段階で参画しなかったのか? それが万能感の不思議、あるいは現実検討

能力喪失の証明。 そんなところで<官><民>一体とは、ね!

 

*   *   *

 

制定段階で自国に有利な方向に誘導する、と共に戦略に組み込むのは当然。

後者が韓国の例で解説されました。  大統領令16850号で「IEC

に合わないものは、猶予期間2年の後は回収廃棄」とした不退転。

 

LG電子の朝礼で気合いを入れる技術者たち、QC運動隆盛当時の日本も

顔負けの迫力。 <品質管理センター>は各国の規格や提案の情報を収集、

世界96カ国の事業所から月100件、とか。  各種国際規格が

 

厳しくなって行く方向を先取りし、それに対応した商品で欧米市場を狙う。

「日本の技術は高いが、国際的な流れを読み、規格をめぐる世界の動きを

把握するという一点では完全に出遅れている」。  言われてしまった。

 

この情報化時代、日本メーカーも相当に情報活動していると信じたいが、、

こうした油断はIEC規格の件だけじゃあるまい、と懸念されます。

 

*   *   *   *

 

で、<2槽式>どうするんだ?  メーカー各社、集まって論じた結果の

<日本的>な結論。 「IEC準拠に設計変更するのは大変だ。 規格を

変えてもらわないと製造できなくなる。 実情を理解してもらわないと、、」

 

主観的には低姿勢のつもりだろうけれど、客観的には横着ないし横柄かも。

現物は悪くない、問題は相手の認識だ、<私はOK。相手はOKでない>。

 

現物で安全性をPRしよう、となって5月14日、鹿児島で催された改訂

国際会議に、「これまでにない」20人を送り込んだという。  しかし、

 

20カ国、60人の参加者にいくら「事故報告が1件も無いことを強調」

しても、<欠陥隠し>の悪名高い日本。 説得、利くかな? 業界担当者

は「認めてもらえると感じた、、」そうだが、楽観的過ぎないか?

 

それで幸い認められても、規格化には1年かかる。 その間、輸出は出来

ないのだし、万一認められなかったら、、  やはり呑気すぎるんじゃ?

 

*   *   *   *   *

 

結局は解説調。「日本は発信すべき。 積極的努力が不足だった。 人材

の育成が必要。 それは国際会議に出て英語で主張できる人、でなくては

ならず、各地に代表を常駐させる必要もある。 それら人材には、社内で

の高い地位が与えられねば、、」  ご尤も。 しかし裏返せば、

 

実情はそうでない、ということ。 常駐者は情報収集せず、社内での地位

も高くはない。 国際会議には積極的でないし、出ても英語では喋れない。

人材がいないんだから発信なんか出来ない、、

 

要するにコップの中の覇者でしかなかったんだ、、 早くから国際化して

いるビジネス界ですらこれだから、役人や政治家はもっとローカル、、

 

だが「技術とマーケティングを統合して世界標準を制すれば、グローバル

マーケットも制することが可能だ。 小企業も世界市場にアクセスできる

時代。 ピンチもチャンス、、」と。  まあ、おハナシとしては、ね、、

 

自分を取り巻く現実にすら目を配る習慣が無い、たとえ見て取ったことが

あっても業務に反映させる仕組みが無い、、 そんな文化が居座っている

限り、ハナシはハナシ、それ以上にはならんでしょう。  良いのかな?

 

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しかし、改むるに憚ることなかれ。 <花見酒>(通じるかな? 落語の

教訓ですが、、)じゃ何も残せない。 <儲け>は常に<外>にあるのだ

から。  なら、<外>のルールでショーバイするのでなくちゃ。

 

それには現実直視、市場優先、迅速実行の業務風土に転換することが必要。

それには<外>に通用する<考え方>の実行型人材を育成することが必要。

それには全員、(ほら来た!) Rational Process のマスター!!!

                           ■竹島元一■

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